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2000/07/26UP


玩具用塩ビゾルと環境ホルモン対応1999,10,16

(株)コバヤシ コバゾール事業部 技術部 島田 誠  渡部 昭人

ポリマーダイジェスト 1999年11月号 発行社:ラバーダイジェスト社より抜粋

1.はじめに
弊社は長年に亘って塩化ビニ−ルプラスチゾル(以下ゾルと呼ぶ)を
商品名「コバゾ−ル」で製造・販売してきた。プラスチゾルとは液状物質に樹脂を分散させたゾル状の樹脂コンパンドである。樹脂は塩化ビニ−ルペ−スト使用し、液状物質として可塑剤を使用する。最近ではゾルに使える樹脂としてアクリルペ−ストが開発され弊社もアクリルゾルを製造・販売している(詳細はポリマ−ダイジェスト10月号P62)。

成型法はゾルが液状である事を生かした常圧成形が採られている。モ−ルディング用にはスラッシュ成形、回転成形、ディップ成形、キャスト成形等がある。又、コ−ティングにはスプレッド、ディップ、グラビア、ロ−タリスクリ−ン等がある。用途は他品種少量生産向きで、人形、食品模型、壁紙や床材等の建築材料、アンダ−コ−トやシ−ラント等の自動車関連、弱電部品、等広範囲に使用されている。成型方法や用途に合わせたコンパンドを提供するのが弊社の役割である。          

2.環境ホルモン(内分泌攪乱物質)
一部の化学物質には人や野生生物の内分泌(ホルモン)系を妨害し、健康に悪影響を与える可能性があると言われている。そうした物質を「環境ホルモン」とよんでいる。
 ことの起こりは、1997年9月末にコルボ−ンらによる「奪われし未来(OURS TOLEN FUTURE)」の日本語版が出版されマスメディアに大きく取り上げられた、身の回りにある普通の一般消費材の中に問題となる物質が存在し、あたかも人々がそれらに常に暴露されているという恐怖感がこの問題を深刻にさせた。その後、社会問題化し、世界的な広がりを見せ環境団体、消費者団体、生産者団体、学者、知識者、等が諸説紛々述べているが未だ明快な結論は出ていない。

 日本では、厚生省、環境庁が公式見解書を発表している。厚生省は「直ちに有害反応を引き起こす可能性は低く有意な因果関係を示す知見はない(抜粋)」とし、そのなかでも「胎児への影響については成人のように内分泌系のフィ−ドバックシステムが確立されていないこと等から総合的な暴露等について調査する必要がある(抜粋)」としている。又、「内分泌攪乱物質問題には不確実さが存在しているのでこの問題を適切に解決するためには、科学的に十分信頼できる調査研究が必要である」とも述べている。一方、環境庁は「人や野生生物への影響を示唆する科学的報告が多くなされているものの、報告された異常と原因物質との因果関係、そうした異常が発生するメカニズム等に関してはいまだ十分にはあきらかにされていない(抜粋)」とのべ、平成10年5月に「環境ホルモン戦略計画SPEED98」を公表し、その中で「内分泌攪乱作用が疑われる67化学物質」の表を掲げた。この表の中には農薬や殺虫剤に混じってプラスチック添加剤が含まれていた。特にフタル酸エステル類が多く含まれていた為、可塑剤業界、塩化ビニル業界、塩化ビニル加工業会、消費者等に大きな衝撃を与えた。

3.フタル酸エステル類
 公表されたフタル酸エステルの詳細はフタル酸−2−エチルヘキシル(di-ethylhexyl phthalateDEHP)、フタル酸ブチルベンジル(butyl benzyl phthalateBBP)、フタル酸ジ−n−ブチル(di-n-butyl phthalateDBP)、フタル酸ジ−n−ペンチル(di-n-pentyl phthalateDPP)、フタル酸ジヘキシル(di-hexyl phthalateDHP)、フタル酸ジプロピル(di -propyl phthalateDPRP)、フタル酸ジシクロヘキシル( dicyclohexyl phthalate DCHP)、フタル酸ジエチル(diethyl phthlateDEP)の8品目ではあるがフタル酸エステル全てに疑いが掛かっているのは明白である。フタル酸エステル系可塑剤は塩化ビニ−ルの良質な可塑剤であり、多量生産、多量消費されている。平成9年度で可塑剤全体で57万トンが生産され、そのうちフタル酸エステル系可塑剤は48万トンで84%を越えている。

 塩化ビニ−ル樹脂の柔軟剤として長年の実績があり多用されてきたフタル酸エステル系可塑剤に環境ホルモン作用(内分泌攪乱作用)の疑いがあるとの発表に筆者も困惑した。        
なぜなら、可塑剤工業界は平成9年6月の会報(No7)でフタル酸エステル系可塑剤DEHP(DOP)の安全宣言を出し、兼ねてからの安全論議に終止符がうたれ安心していた矢先だからである。

 それでは、フタル酸系以外の可塑剤としてどの様な可塑剤があるのだろうか。アゼライン酸誘導体、エポキシ誘導体、クエン酸誘導体、グリコ−ル誘導体、グリセリン誘導体、脂肪酸誘導体、アジピン酸誘導体、スルホン酸誘導体、セバシン酸誘導体、安息香酸誘導体、トリメリット酸誘導体、ピロメリット酸誘導体、ビフェニル誘導体、パラフイン誘導体、ポリエステル誘導体、燐酸誘導体等、実に多くの可塑剤が存在する

4.欧州に於けるPVC玩具の規制の動き

 

PVC玩具 規制内容

規制の
条件
所管省庁

法令
発効日

備  考
対象
年齢
対象
オ-ストラリア 3才
未満
フタル酸エステル類 使用禁止 衛生省 99.1 TIEは、EUに対し苦情 
デンマ−ク 3才
未満
フタル酸エステル類 使用禁止 環境保護庁 99.4.1  
フィンランド 3才
未満
フタル酸エステル類 禁止 通産省   DINP,DEHP,DBP,DIDP,
DND、P,BBP
フランス 3才
未満
口に入れる意図の
ある軟質塩ET製
保育関連
製造.販売.
流通輸入禁止
工業省 99.7.7 法令はEUに通達、
メ−カ−は製品回収
ドイツ   フタル酸エステル類
軟質塩ET製
保育関連
禁止 厚生省   厚生省が提案、貿易省が反対。秋までに採択される可能性はなし
ギリシャ 3才
未満
軟質塩ET製の
玩具、歯固め
禁止 衛生省 99.7 EUが疑問提示中
イタリア   フタル酸エステル類
軟質塩ET製の
玩具
製造.販売の
禁止
産業省
厚生省
99.9 提案はEUに通達。スペインの反対で3ヶ月遅れ
ノルウェ− 3才
未満
フタル酸エステル類 禁止   2000.1  
オランダ 3才
未満
        試験法と判定基準を検討
スウェ−デン 3才
未満
フタル酸エステル類 禁止 環境庁 99.8.1 全重量の0.05%は使用可

@ベルギ−、アイルランドは法制化の動きなし。 
Aルクセンブルグ、ポルトガル、スペインはEUの提案待ち
Bイギリスは禁止しない、試験方法と判定基準を検討


5.ESゾル(環境ホルモン対応)
 元来、玩具は乳幼児が手に触れたり口に含むことを考慮した安全な製品になっていなければならない。玩具業界に携わる者は衛生面についての注意義務があるのは当然の責務と考える。特に玩具の安全性については予防原則が成り立つ。この原則は結果が判明してからでは遅すぎる事態が予想される場合に、危険が予想された時点で取りあえず嫌疑物質を取り除いておく考えである。現在、玩具衛生の規格には玩具安全基準(ST基準)の材料基準の他、法律として厚生省告示第257号(おもちゃ)があり厳しく規制されている。

未だ、環境ホルモン問題の真意は明確になっていないものの玩具業界に長年間お世話になっている者の責務として、又、予防原則を考慮して筆者らはフタル酸エステル系可塑剤を全く使用しない玩具用ゾルの検討を進め、平成10年9月迄にESゾル(環境ホルモン対応ゾル)を開発し日本プラスチック玩具工業組合で説明した。

 筆者らはフタル酸エステルが危ないと述べているのではない。フタル酸エステルを使用しないでも玩具用ゾルはできる事を提案しているのである。どちらを選ぶかは消費者が選択することであろう。 但し、フタル酸系以外の可塑剤であればどの様な可塑剤でも良いのだろうか?。安全衛生性を第一に考えれば、ST基準(玩具安全基準)、厚生省257号に合格する事は無論、可塑剤自体の急性毒性、発ガン性、皮膚刺激性、臭気などは当然考慮しなければならない。安全衛生性のデ−タが不足している可塑剤は検討から外さなければならない。クエン酸誘導体、グリコ−ル誘導体、グリセリン誘導体、アジピン酸誘導体、安息香酸誘導体、ポリエステル誘導体、の中に安全性の高い可塑剤が散見される。

 筆者らは種々検討した結果、可塑剤としてATBC(acetyl tridutil citrate)を推奨する。

CH2COOC4H9
h

CH4COO-

C-COOC4H9

h
CH2COOC4H9
アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)

この可塑剤の製法はクエン酸とブタノ−ルのエステル化反応でクエン酸トリブチルを作り、次に クエン酸のOH基を封じる為、無水酢酸でアセチル化する。


出典 1973 「可塑剤−その理論と応用」村井孝一 編著 幸 書房

この可塑剤は古くから食品関係用可塑剤として定評があった。化学反応式から明らかな様に、反応に使用する原料のクエン酸は食物からの分離であり(現在はトウモロコシから)、ブタノ−ルはアルコ−ル、酢酸は酢である。従って、安全性はすこぶる高い。イギリスB.P.FSECOND REPORORTでは毒性係数T=100で安全係数はもっとも高い、 米国・FDAでも安全性を広く認めている(FDA.No175.105 175.300 175.320 178.3910 181.27)。因みに塩ビ食品衛生協協議会のPL承認NoはB−4−(3)である。現在、国産化しているのは三建化工(株)のみで生産量はそれほど多くはないが、海外にも幾つかのメ−カ−がある。

次に「内分泌攪乱作用が疑われる67化学物質」の中にはビスフノ−ルェAやノニルフェノ−ル類が入っている。これらも塩化ビニルに使用される可能性がある化学物質である。これらの物質の含有についても当然吟味する必要がある。
 又、玩具用として使えるにはそれなりの製品の物性(機能)が必要になる、表面硬度、引張強度、伸長率、引裂強度、低温脆化性等である。成形法はスラッシュ成形、ロ−テ−ション成形で金型形状が複雑な為、ゾル粘度や粘性、成型時の流動性、脱型性も重要な因子となる。加えて、玩具特有の課題として成形品の表面に眉、目、口、衣服、等の彩色が施される。その彩色が消費や流通過程で乳幼児が舐めても剥がれてはならないのである。つまり成形品の表面に油分のブリ−ド現象があってはならない、その他、製品コストも当然考慮しなければならない等、玩具特有の制約事項が多々ある。それには、可塑剤の選択だけでなく樹脂、安定剤、希釈剤、顔料、充填剤等各素材の検討が必要になる。

 筆者らは上記の諸課題を解決したゾルをESゾル(エンドクリ−ン、セイフテイ)と名付けた。表面硬度の違いによってES−32、ES−34、ES−36、ES−38、ES−40、ES−42、ES−45、ES−50、ES−55、ES−60、ES−65、ES−70、ES−80ES−108、ES−109、ES−11、ES−111、ES−112とESシリ−ズを完成させST基準(玩具安全基準)の材料登録した。その特徴は下記の通り
@フタル酸エステル系可塑剤はもとよりビスフェノ−ルAやアルキルフェノ−ル等環境ホルモン  の疑いのあるものは一切使用していない。
A使用可塑剤は世界的にその安全性が認められているATBC(acetyl tridutil citrate)を主体にして  配合している。
B各種衛生試験に合格している(ST基準、厚生省告示第20号、厚生書告示257号、)
C塩ビ食品衛生協議会のJHP規格に合致し登録されている。登録番号Z−3673
D成型方法及び成形条件や金型は既存の方法と同じ方法が使える
EESシリ−ズの硬度や粘度は従来のゾル同様自由に選べる
6. ESゾル試験結果 

1.物性試験(ES品と既存品の比較)

試験項目

試験値

単位 試験方法
ESゾル 既存品
ゾル粘度 2200 2100 mPa・s  BM形粘度計 V9
ゾル比重 1.22 2.1 -  JIS K5400準拠 比重カップ法
表面硬度 80 80 -  JIS K6253準拠 タイプA
引張強度 19 17 N/mm2  JIS K6251準拠
伸張率 290 310  JIS K6251準拠
引裂強度 82 81 N/mm2  JIS K6252準拠
衝撃脆化限界温度 -15 -20  JIS K6252準拠
表面ブリード なし なし    50℃×温度90%7日間
耐候性 変化ナシ 変化ナシ    ウエザオーメーター500時間
彩色性 問題なし 問題なし   塗料:藤倉応用化工(株)
ビニクラーCH

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